世界の備忘録

歴史上の忘れたくない事件などをまとめていくブログです。

備忘録その12 アクテアルの虐殺

こんにちは。
今日は前回に続き先住民関連の事件を…舞台はメキシコです。
 
まずは事件の概要です。
1997年12月22日にメキシコのチアパス州のアクテアルという小さな村の教会でラス・アベハス(Las Abejas)という組織(組合?)に所属する先住民ツォツィル族の女性45人が無差別に殺害された事件。
殺害したのはチアパス州を統治する制度的革命党(Institutional Revolutional Party, 略:PRI、長い間メキシコの与党)軍事・政治組織から目をつけられていた。
 
 

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アクテアルの位置
ツォツィル族って?
チアパス高地に暮らすマヤ人の一派。
 
ラス・アベハスって?
1992年に創設された組織。
サパティスタ民族解放軍(Zapatista Army of National Liberation, 略:EZLN)と手を組んで先住民の権利拡大を図っていたが、サパティスタとの違いは平和的な手段のみを取っていたことだった。目指すものはサパティスタと同じため、PRIから敵対視されていた。
 
 
アクテアルの複雑な状況
アクテアルという村は当時、三つの区域に分かれていました。一つはEZLNが構成する地区、もう一つはPRIが構成する地区、そしてその真ん中にラス・アベハスに属する人々が居住していました。
あらゆる階級を支持層に取り込むPRIと貧しい農民をはじめとする先住民族で主に構成されているゲリラ軍であるEZLNは敵対しており、非武装主義のラス・アベハスは両隣のEZLNとPRIからお互い「あっち側なんじゃないか…?」と疑われていたりもしたそうです。目指すものが一緒だからといって、必ずしもサパティスタと良好な関係ではなかったということでしょうか。
 
 
また、この事件の被害者は妊婦を含む女性でした。平和的手段をとる組織の、女性のみを狙ったということにどんな意味があるのか気になって調べていたのですが…
これには先住民族の女性に対する差別や暴力・蔑視といった元々あった問題が深く関与しているようです。
サパティスタは1996年に女性の権利拡充に向けた案を提案します。
その中には女性自身が気を付けるべきこと(例えば薬物や飲酒をやめようなどなど)もありますし、集会などの参加権を持とうなどの革新的だっただろうなと予想のつくものから、食事や医療などの面で男性と同等の権利を得ようというような(小林 致広(1999)参照)、日本で暮らしていると想像もつかないようなレベルのものもあります。
このことからもサパティスタやラス・アベハスを構成する先住民の女性の地位の低さがわかります。
 
また、アクテアル事件の前、PRIの男性が「ラス・アベハスの女性を攻撃しよう」という発言が出ていたと言います。明確に狙っていたわけですね。
 
うーん。与党による虐殺事件…
まぁ日本に例えれば自民党が…と言われても想像もつかない事件ですが、差別的な考え方、目障りな存在、となるとありえることなのでしょうか。
にしても非武装の女性たちを凄惨な方法で虐殺して、何が生まれるのか一瞬でも頭をよぎったりしないんですかね。よぎらないんでしょうね。
 
こういった事件から学べることは先日のアメリカ先住民のこともそうですが、憎しみ・蔑みは大きな犠牲を生むことになるということですね。しっかりかみしめておきたいです。
 
参考にしたもの
小林 致広(1999), チアパスにおける先住民族運動(8) : 先住民女性の抑圧的伝統との戦い, 『神戸外大論叢』 50巻, 4号