今日はある僧侶とその僧侶の行動がきっかけに大きく局面が動く場面です。
ベトナム戦争の段階としては以下の時期にあたります。
その6_南ベトナムはゴ・ディン・ジエムという人物がアメリカの支援を受けて「ベトナム共和国」の大統領に。
1963年、ティック・クアン・ドックという僧侶がサイゴン(現ホー・チ・ミン市)のカンボジア大使館前で焼身自殺を図りました。
理由はゴ・ディン・ジエムによる仏教徒弾圧への反発でした。
ゴ・ディン・ジエム大統領自身カトリック信者で、サイゴンのカトリック系権力者たちを優遇していました。これに対して仏教徒が反政府運動を行うのですが、大統領は戒厳令を出して抑え込みます。
1963年5月の仏教徒による反政府デモでは死者も出ています。そして6月、ティック・クアン・ドック僧侶はマスコミに話した上で焼身自殺、最後まで蓮華坐を崩さなかったそうです。
ショッキングな映像は事前に知らされていたマスコミによって世界に配信されます(載せませんが今でも見ることはできます)。
この事件自体も相当ショッキングなものですが、この後の大統領の弟嫁の発言が全世界からの批判の的となります。
大統領の弟で大統領顧問を務めたゴ・ディン・ヌーの妻、マダム・ヌーはインタビューに対し
「あんなのはただの人間のバーベキューよ」と言い放ったのです。
これにはケネディ大統領も激怒したそうです。そして理由がこれだけなのかはわかりませんが、CIAがベトナム軍の反政府勢力を支援することもアメリカは黙認するようになったり、ヌー大統領顧問の更迭を求め、さもなければジエム大統領の安全はないと警告するなど、ケネディ政権も敵に回ってしまいます。
結局ジエム大統領は11月に起きたクーデターによって射殺され、ヌー夫妻は国外逃亡となりました。
ここで注目したのは僧侶の焼身自殺から半年も経たずにジエム大統領が射殺されていることですよね。僧侶の自殺と、そのことについてのヌーの発言が相当な着火剤になったことは間違いないと思います。
もちろん僧侶以外にも多くの犠牲者を出しているのですが、やはり一僧侶の「焼身自殺」という点は大きかったと思います。
というのも、仏教では自殺は不殺生の戒律を破るものなので、認められていません。しかし焼身自殺に関しては、求道と利他の焼身供養という見方もあるそうなのです(車相燁2015)。
しかもここまで大きな動きを巻き起こしたという点でこの自殺は多くの人の利益になったとして英雄的に語られることが多いですが、その後の連鎖的な焼身自殺を多数呼び起こしたことも事実で…
という風に考えると、難しいですね。
でも自殺するべきだったかどうかという論争はさておいて、ティック・クアン・ドック僧侶の死や、不条理に屈せず必死に戦っていた仏教徒たちがいたこと、そしてその方々の犠牲についてはしっかり覚えておかなきゃいけないな、と感じました。
そしてそんな人々の死を笑った人はやはり悪です。
参考文献: 車相燁(2015), 仏教と自殺問題―焼身自殺をどう見るか―, 『大正大学研究紀要』, 大正大学