世界の備忘録

歴史上の忘れたくない事件などをまとめていくブログです。

備忘録その1 キェルツェポグロム

 

キェルツェ(Kielce)って?

ポーランドの首都ワルシャワと第二都市であるクラクフのちょうど真ん中くらいにある町。

人口20万人ほどが住んでおり、以前は石炭鉱山で、現在は商業都市となってます。

 

写真はホテルの予約サイトからお借りしました。

 

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ポグロムって?

ロシア語で「破壊・破滅」を意味するもので特に説明がない限りはユダヤ人に対して行う迫害行為のことをいうそうです。(Wikipedia 参考)英語ではユダヤ人以外の事件にもポグロムという事件名になったりしてるみたいですが…まぁ置いといて。

 

キェルツェポグロムはその名の通り、キェルツェという町で起こったユダヤ人に対する迫害行為のこと。

 

起こったのは1946年7月4日のことでした。

絶滅収容所アウシュビッツにソ連軍が入り、ユダヤ人が解放されてから一年半ほど経った頃です。

 

この街に住むヘンリクという八歳の少年が行方不明になります。

二日後に無事戻ってくるのですが、彼は誘拐されて地下室に閉じ込められていたと父親に言います。父親と一緒に警察に向かう途中、ヘンリクは「あの人がやった」とプランティ通り7番地にあるユダヤ人会館の近くを歩いている人を指さします。

 

その会館には180人のユダヤ人が住んでいますが、地下室はありません。

またここに住むユダヤ人の多くは、絶滅収容所から生還を果たした人々でした。

 

7月4日、軍人数名(small groupとのことです)と警察が調査のためにこの建物を訪れますが、その頃には噂が膨らみながら広まっていました。

ユダヤ人が生贄のためにクリスチャンの子供を誘拐した、などと。ヘンリク以外にも被害者がいたという風に認識されていたようです。

 

そのうち武装した市民も集まり、警官らが中にいたユダヤ人を庭に引きずり出して暴行を加えます。

略奪され、殴られ、銃剣で刺され、撃たれるなどして赤ちゃんや妊婦を含む42人が死亡、40人以上が負傷する結果になりました。

 

この事件がきっかけで、ユダヤ人がポーランドで生活するには危なすぎるという認識が生まれ、大規模な移住に進んでいきました。

 

というような事件なのですが…

記事を読んでいるだけで怖いですね。

噂が広まって大きくなって大きな虐殺に発展した事件は他でも起きていますが、政府主導で扇動されたとかではなく、積りに積もった鬱憤のようなものが、些細な少年の嘘によって短期間でどんどん膨らんでいって爆発している感じがします。

 

遠い国―特に大きな宗教問題に直面していない国―にいると、収容所を生き抜いたというと奇跡だとか、すごい人々だとか、ドラマチックに語られることもしばしばあります。確かに1930年代には24000人のユダヤ人が暮らしていたキェルツェで、1945年に戻って来たのは200人なので、色んな幸運が重なったり、体力・精神力共に優れていた(そんな問題でもない気もしますが…)人たちだとは思います。

しかし、2万人を超えるユダヤ人がいなくなってから彼らが置いて行ったものや家などの恩恵を受けていた人々(主にクリスチャン)からすると、再び現れたユダヤ人はやはり昔からの敵であり、生活を脅かす人たちであることに何ら変わりはなかったということなんですね。

 

もちろんポグロムはキェルツェだけではなく、1945年にはクラクフでも起こっていますし、1941年のリヴィウポグロムなどウクライナなどでも起こっています。

古いものだと17世紀から記録に残っているようです。

 

どの民族や宗教にとっても宗教上の理由や歴史上の理由、経済力の理由など様々な理由で敵対関係にある民族や宗教があって、大きな戦争が収束したからといって人間が昔から持っていた感情まで変わるわけではない、という面が見える事件だな、と思いました。

他のポグロムについてももう少し勉強してみます。

 

また、TIME誌の2016年の記事によると(http://time.com/4384977/polish-documents-jdc-kielce-pogrom/)この頃のユダヤ人の転居や居住地に関する文書がアメリカ・ユダヤ人共同配給委員会https://archives.jdc.org/で公開され、このポグロム後のポーランドにおけるユダヤ人の人口変動について調べることができるようになったとしています。

当時はタブー視されていたからか情報を開示していなかったのでしょう。

 

こんな風に時間が経ったからこそ出てくる動きもあるんですよね…研究などに役立ってほしいなと思います。

 

参考:https://www.smithsonianmag.com/history/kielce-post-holocaust-pogrom-poland-still-fighting-over-180967681/